| 時は我々の味方だ。
もはや僕達を捜し出そうとする者はいない。
時は流れ、世間は僕たちのことを忘れてゆくのだ。
少し前までは毎夜、好奇心と畏怖の念を抱いて屋敷に 近づく若いバンパイヤたちや、日中の騒きに紛れて 憧れの気持ちでいっぱいの人間たちが、絶えずこの辺りにいた。 勿論そんな輩にこっちの気配を感じさせるほど、 僕も甘くはないけれど。
でももう、みんな来なくなった。
ただデビッドだけが(いつのまにか)ここに居座っている。
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僕とデビッドは言葉を交わさない。毎晩サロンで顔を合わす度に デビッドは穏やかな視線を僕に投げかけるが、僕は無視する。 今は気が向かないだけだ。いつか、また喋るかもしれないけれど。
彼はいつのまにか出かけて行く。レスタトの眠る教会へ、足繁く 通っているのを、何気なく知らせてくれる。でも僕はそんなことには 興味がない。
僕はずっと、眠るレスタトと会話を続けているからだ。
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「おはようレスタト。不思議な夢を見たよ」
ジャングルの中、君の母親ガブリエルが裸で雨に打たれて いたんだよ。濃い緑の中、彼女は透き通ってた。
「おはようレスタト。今日、ドストエフスキーを読んだけど、 クロウディアと3人で罪について大討論した時を覚えてるかい?」
あの時は僕一人、殺しの罪と内なる神の裁きについて語ったんだ。 君は、ニーチェを引用して、我々と人間と、何が「罪」になるかは 別だ、と説いたね。でも僕はやっぱり君は間違ってると思うよ。
「おはようレスタト。今日は海辺へ行って来るよ」
白い波を月光でめでるんだ。クロウディアが好きだったな、海。 一度3人で海を渡ってみたかったな。
「レスタト、おはよう。今日はトスカを観て来たけど、何度観ても 泣かされるよ。」
あの羊飼いの少年の歌が好きだ、と言ったら君は食べたい、と言って 僕を怒らせたね…。
毎日毎日、君が深い眠りから目覚めないうちは 僕達の会話は続いていくよ。
僕は、もう狂っているのかもしれない。///
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