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- 来訪 -

「ルイ」
ふと瞼を刺激するまぶしい光に気づく。はっと目を開くと、 あまりのまぶしさに目がくらんだ。

思わずまた目をつぶる。

「どうしたの、兄さん、めずらしいね」
「ポール…」

手をかざして再び目をそっと開けると、弟のポールの呆れ顔が そこにあった。

重いビロードのカーテンは開け放たれ、 既に高く昇ぼった陽の光が、レースの 模様を壁や床に映しだしていた。

「おはよう…」

ルイがボソっと言うと、ポールはにっこり笑い、「おはようルイ兄さん!」と元気よく返してきた。
「いつも早起きなのに中々起きてこないからどうしたのかと 思ったよ」

「あ…」

まだ少年のふくらみが頬に残る弟を見つめて、 ルイは溜め息ともつかない声をもらした。
「ああ…」

「兄さん…?」

ルイは顔を両手で多い、低いうめき声をもらした。

「兄さん?どうしたんだよ」
ポールが慌ててルイの方に身を乗り出す。「どこか痛いの?ねぇ、兄さん??」
ルイに触れようとした。
途端にルイの手がポールの白い腕を掴む。痛いほどきつく。

「ルイ…?」
いつもは穏やかな兄の尋常でない様子に驚きの表情でルイを見つめる。
「どうしたんだよ」

食い入るような瞳でポールを見つめ返すルイ。

「…夢…だったんだ…」

溜め息ともつかない言葉がポツリとルイの唇からこぼれる 。

「夢…」

__

暗かった。

それだけ覚えてる。

光のない世界。暗闇の中で、ロウのように白い肌だけ見えた。

赤い唇。不思議な宝石のような色をした瞳。

――そう、瞳。

そして闇の中、光を放たんばかりに輝く金髪――…。

心臓がドキドキした。

――誰だ?――ポール?

いや、彼はもういない。

誰も、いない。皆塵となって消えてしまった。

私の中に思い出だけを残して。でもここにいるのは…

―――おいで。―――

どくん。

赤い唇。白い―――牙――…。

どくん。

――おいでよ、ルイ―――。

蜂蜜のような声。
いたずらっぽい声。

意地悪な声。優しい声。
ナイフのような、声。

どくん。

…どくん。

身体の芯が、熱い。

もう一度

(どくん)

呼んで。

__

「兄さんってば。」

はっと我に返った。
「ポール…」

「悪夢でも見たの?」

2、3度瞬きをして、目の前の存在を確かめる。

「ああ」
何がこんなに虚しいのか。ばかみたいだ、子供じゃ あるまいし、夢ごときでこんな、弟に泣き顔を見せるなんて…。

どうかしてるよ。

ほぉ、とポールが小さく溜め息をついた。
「兄上、最近きちんと礼拝にも行ってないでしょ?夢を通して 神が、兄さんをおしかりになってるんだよ」

――おいでよ、愛しいルイ…――。

耳の奥に残るあの甘美なささやきは、

―――神…か。

「そうかもな」

それとも、悪魔…か。

「そうだよ。僕ももっとちゃんと兄さんの分も祈ってあげるよ。ね。」
「ははは…;いや、自分もちゃんと礼拝に出るよ」
嬉しそうな顔をする弟。ルイはそっと彼の頬に触れてみる。

そうさ、消えてなんかいないんだ。

どくん。

「もう起きるよ」
「ん」

ぱっと立ち上がり、ポールは兄の服を持って来る。ルイがシャツを 脱ぐと、弟はさっと替えを差し出す。ルイの背に触れる手は ひんやりしていて、気持ちよかった。

「兄さん」
ふとポールは物思わしげに言う。

「なんだ」

「神はね…」ポールの瞳は窓の外、遠くをみつめてる。「意外と 我々の近くにいるんだと思うよ。」

「…。そういうことはおまえが一番良く知ってると思うぞ。」
努めて誠実にルイは答えた(ルイは、こういうことに関して あまり深く考えたい人間ではないのだ)。

ポールは静かな口調でゆっくり語る。


注: ↑ポールとレスタトです…(T_T)

「きっと側にいるよ。黄金の髪と…」

びくっ、とルイは身をふるわした。

「…すみれ色の瞳をした…」

――ナイフの声を持つ――

「…天使が。」

どくん。

「ポール…」

ルイの発した苦しげなうめきに弟ははっと我に返った。
「あ…ごめん…。もう礼拝に行くよ。兄さんも…」期待をこめて兄を見る。

が、ルイは首を振った。「夜には、な」

「うん」
おとなしくうなづいて、ポールはルイに微笑みかけた。
「きっとだよ」

出て行く弟の背をみつめながら、彼の言葉をそっと繰り返す。
「意外と…近くに居る…」

どくん。

光か。闇か。その存在がどちらに属するモノなのか。

不思議と消えないその夢の残像を払いのけるように、 ルイは立ち上がり、フランス窓の外へと出る。

礼拝堂からはミサを歌うポールの声が流れて来た。悪を知らないその透き通った声は、ルイをほっとさせた。

ルイジアナの濃い緑とまぶしい太陽が、今日もルイの 肌を柔らかく包んでいた。

Uploaded September 9, 2000