「ルイ」 ふと瞼を刺激するまぶしい光に気づく。はっと目を開くと、 あまりのまぶしさに目がくらんだ。 思わずまた目をつぶる。 「どうしたの、兄さん、めずらしいね」 手をかざして再び目をそっと開けると、弟のポールの呆れ顔が そこにあった。 重いビロードのカーテンは開け放たれ、 既に高く昇ぼった陽の光が、レースの 模様を壁や床に映しだしていた。 「おはよう…」 ルイがボソっと言うと、ポールはにっこり笑い、「おはようルイ兄さん!」と元気よく返してきた。 「あ…」 まだ少年のふくらみが頬に残る弟を見つめて、 ルイは溜め息ともつかない声をもらした。 「兄さん…?」 ルイは顔を両手で多い、低いうめき声をもらした。 「兄さん?どうしたんだよ」 「ルイ…?」 食い入るような瞳でポールを見つめ返すルイ。 「…夢…だったんだ…」 溜め息ともつかない言葉がポツリとルイの唇からこぼれる 。 「夢…」 __ 暗かった。 __ 「兄さんってば。」 はっと我に返った。 「悪夢でも見たの?」 2、3度瞬きをして、目の前の存在を確かめる。 「ああ」 どうかしてるよ。 ほぉ、とポールが小さく溜め息をついた。 ――おいでよ、愛しいルイ…――。 耳の奥に残るあの甘美なささやきは、 ―――神…か。 「そうかもな」 それとも、悪魔…か。 「そうだよ。僕ももっとちゃんと兄さんの分も祈ってあげるよ。ね。」 そうさ、消えてなんかいないんだ。 どくん。 「もう起きるよ」 ぱっと立ち上がり、ポールは兄の服を持って来る。ルイがシャツを 脱ぐと、弟はさっと替えを差し出す。ルイの背に触れる手は ひんやりしていて、気持ちよかった。 「兄さん」 「なんだ」 「神はね…」ポールの瞳は窓の外、遠くをみつめてる。「意外と 我々の近くにいるんだと思うよ。」 「…。そういうことはおまえが一番良く知ってると思うぞ。」 ポールは静かな口調でゆっくり語る。
「ポール…」 ルイの発した苦しげなうめきに弟ははっと我に返った。 が、ルイは首を振った。「夜には、な」 「うん」 出て行く弟の背をみつめながら、彼の言葉をそっと繰り返す。 どくん。 光か。闇か。その存在がどちらに属するモノなのか。 不思議と消えないその夢の残像を払いのけるように、 ルイは立ち上がり、フランス窓の外へと出る。 礼拝堂からはミサを歌うポールの声が流れて来た。悪を知らないその透き通った声は、ルイをほっとさせた。 ルイジアナの濃い緑とまぶしい太陽が、今日もルイの 肌を柔らかく包んでいた。 |
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Uploaded September 9, 2000